新川柳作記念館 Ryusaku Shinkawa Memorial

ACE

雪降る夜の思い出

寒行僧

私が5歳か6歳の頃、生家のガラス窓越しにチリンチリンとお鈴の音とともに夜の雪道を歩いてこられるお坊さんの姿を垣間みた。

人通りも絶えた夜の雪道をお布施を乞うこともなく、人が見ていようがいまいが、ただ一心に一軒一軒のご家族の幸せを、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と寒行されるお坊さんの尊いお姿に、いつまでも見とれていた。

その情景が脳裏に深く焼き付いて、後年の人生に大きな教えとなっていた。
たとえ仕事は違っても、正しい商売道を歩まねばと、知らず知らずのうちに、固く心に誓うようになっていったのでした。


「静かに静かに雪降る夜は、はるか遠くを走る汽笛の警笛がかすかに聞こえるなかで、犬の遠吠えがして、ふと硝子越しに外を見ると、いつの間に積もったのだろうか、道路は真っ白い雪でいっぱいであった。時折の風に粉雪がチラチラと舞い上がり、舞い降りる。この時遠くの方から、チリンチリンというお鈴の音にまじってお経の声が聞こえてきた。だんだんと近づいてくる。私は硝子窓に顔を押しつけるようにして目を凝らした。ガス燈の明かりのなかに、菅笠に墨染めの衣、素足に草鞋履き、手にお鈴を持って一軒一軒の家の軒先に立ち止まって、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と深く拝んでおられるお坊さんの尊いお姿であった・・・・」