大きな転機
秋を迎えると製品の売れゆきがピタリと止まりました。
お客様はナイロンの質感が冷たく思われたのでしょうか。しかし、生産に追われることのないこの時期が、幸いにも商品の研究・改良を重ねる絶好の機会となりました。
商品の改良も進み一段落したころ、東レさんから展示会の提案をいただき、1954年(昭和29年)3月3日、新川柳商店主催・東レさん協賛による、「東レナイロンエースバッグ発表展示会」を新大阪ホテル(大阪中之島)で開催することになりました。単独会社による発表展示会はカバン業界では初めての試みで、私は重責を感じると共に東レさんにご迷惑をおかけするようなことがあってはいけないと、綿密な計画を練りあげ万全を尽くしました。
当日は早春のまだ寒い時期ですから、天候もまた気掛かりでした。私は展示会の成功と晴天を願い、関係方々お一人お一人の氏名を、毛筆で記して仏壇にお供えし、朝夕に祈りを続けました。