販路拡大に
挙式の翌日に私は九州へ商用で出かけるという慌ただしさでした。創業二年目に入ったばかりという当時の私は新婚気分どころではなかったのです。
九州から戻った私は、すぐに今度は朝鮮(現・韓国)、満州(現・中国東北部)へと販路拡張に向かいました。60センチのファイバートランク二個を掲げて、岡山から、広島、下関、北九州へと旅し各地のお得意先にお伺いし、その足で下関から連絡船で、朝鮮へ渡ったのです。
釜山に上陸、大陸に第一歩を印して線路幅の広さに驚き、駅もホームではなく、欧米風の階段で乗車するのも物珍しく異国の雰囲気を感じとれました。龍山行きと京城行きを間違えて、すんでのことで列車に乗り遅れそうになったりなどの失敗はありましたが、なんとか京城駅に着いてやれやれとひと息つきました。
京城では百貨店、鞄専門店などをお訪ねし商談をまとめることができました。なかでも和信百貨店は、加藤忠商店時代の先輩、梶川栄造さんのご紹介でお訪ねし、持参したサンプルをお見せすると大変気に入られ、その場で全店舗11店のお店のご注文をいただくという予期せぬ成果となりました。また三中井デパートも朝鮮・満州に11店のお店をお持ちだったので、和信百貨店と合わせて一挙に22店ものお店と取引きができたのです。大成功でした。全く運がいいとでもいうのでしょうか。
「お客様に使って喜んでいただける商品を」という、創業以来の私の商売の信条を評価してくださったようです。さらに平城から北京へ、長春へとも考えたものの、すでに受注した量だけでも相当の商品でした。また、大阪を出て一週間以上もすぎていました。それでひとまず帰国の途につきましたが、初の朝鮮訪問で予想以上の成果をあげられたのも、先輩梶川さんのお力添えの賜物と深く感謝した次第です。