東レナイロンとの出会い
私がナイロンを知ったのは、1952年(昭和27年)9月頃のことです。大丸大阪店さんの紹介で日精商事さんがお見えになり、「東洋レーヨン(現・東レ)さん開発の新素材ナイロンでバッグを作ってみては」と勧めてくださったのです。
当時のカバンの主な生地に比べナイロンの強度は格別に高く、しかも色が鮮やかな生地が揃い、カバンの新素材としても大変に魅力あるものでした。
しかし、従来素材より高価であることが商品化を躊躇させていました。当時の学生カバンの素材はヤード当り単価が100~250円、高級ビニールで450円でしたが、ナイロンは800円以上となり、これでは高価すぎて売り物にならないと感じたからです。また、この頃私は東京店の開設準備に追われ、ナイロンの持つ可能性を熟慮することが出来ぬほど多忙な日々を過ごしており、大阪に戻った時でさえも思うように時間がつくれず、日精商事さんとお会いする時も、心斎橋のアーケード商店街を歩きながら、道中でお話を伺うという有様でした。