妻との約束
昭和16年3月21日のことです。私は母のすすめに従って同郷の石川郡蝶屋村(現・美川町西米光)の松田敏子を妻に迎えました。
もちろん当時のことで、見合い結婚でしたが、その見合いもたった一度で、しかも妻となる女性の顔もろくろく見ていないというものでした。
昔の見合いとは、考えてみるとずいぶんとおかしなものです。私たちは冬のある日、本家で見合いをしました。囲炉裏に火がぼうぼうと燃えていて、そこへ敏子がお茶を持って出て挨拶をしました。しかし囲炉裏の火で熱いうえに私も緊張していたものですから、敏子の顔を見るどころではありませんでした。結局、母が敏子を気に入り、母のすすめで結婚をしたのでした。仲人は本家の新川清さんにお願いし、親戚一同が列席して式を挙げました。皆さんお酒の強い方ばかりで、延々六時間も続きました。
結婚するにあたって私は家内に、商売には一切くちばしを入れぬこと、家庭内の切り盛りに専念してくれるよう約束をしてもらいました。お陰様で私は家庭内の事をすべて家内に任せて仕事に専念できました。もっとも仕事だけに打ち込んだ日々で、家庭をほったらかしにしていたのですから、家内には誠に申し訳なく思うとともに、感謝感謝の日々でした。