お客様の厳しい目
東京三越の店長さんのご提案で、軽く折りたためるナイロンバッグを作ったことがありました。1,000円と高価な商品ですが大変な売れ行きでした。しかし、この頃のナイロン縫製加工はまだ困難を極め大量に生産出来ず、商品出荷が間に合わないこともしばしば起きていました。注文が増えることは本当に有難いのですが、この商品ばかり売れては他の商品に悪影響が出ないか…。考え抜いた末に値上げをお願いする事にしました。値上げ後、私が売場にいた時のことです。お客さんは「あら、200円上がっている」と、買わずに去って行かれたのです。私はドキッとしました。お客さんは商品価値をちゃんと知っておられたのです。
商品に価格をつけることは厳しいものだと思いました。
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私が小学校を卒業した頃、東京三越さんの店員募集に私と友人が応募したなど、三越さんには特別な思いがあるだけに、三越さんに東レナイロンエースバッグが初めて陳列された時には、入り口でオーバーコートを脱ぎ、襟を正し、心の中で合掌してから売場へ向かいました。
感謝の心でいっぱいで本当に有難いことでした。